変わるチャイナマネーのリスク(後編)

(前編より続く)

 

1つの仮説として、中国国内の設備が過剰になって、需要を上回る製品の供給が展開されているというシナリオが考えられる。巨大な人口と市場を抱える中国で、そうしたことはあり得ないとの反論が出てきそうだが、所得に見合った消費しかできないとすれば、低所得者のニーズと食い違った製品があふれ、在庫がたまる。高額所得者には、住宅価格の下落でこれまでのような購買力の増大が伴わなくなってきたという可能性もある。

国内消費の頭打ちは、輸出の増大で対応することが中国の戦術の1つだったと思われるが、これも欧州向け輸出の不振で機能しないとすれば、積み上がった在庫水準を調整するために、生産をこれまでよりも減速させざるを得ないのではないか。

また、中国商務省が16日に発表した今年1─7月の海外からの直接投資は、前年比マイナス3.6%の667億ドルとなり、7月単月では同マイナス8.7%の76億ドルにとどまった。海外勢の中に中国経済の先行きを懸念する見方が、少しずつ増加していることを反映した結果だろう。マネーの世界でも、7月は38億元と小幅の資金流出超となった。流出超は4月以来、今年2回目。

 

リーマンショック後の需要減に対応するため、中国政府は4兆元の大規模な財政出動に踏み切ったが、その結果として過大な設備が形成されたとの分析が海外の専門家から出ていた。また、法制上は借り入れができない中国の地方政府が、実質的に借り入れをするために作った第3セクターの財務内容が急速に悪化し、地方政府経由での景気刺激策のルートが、うまく機能していない実態もあるようだ。

こうした状況の下で、中国人民銀行が金融緩和を強化しても、だぶついた資金が設備投資に回らず、中国当局が懸念している不動産市場に流れ込み、不動産価格だけを押し上げ、中国国民の不満を強めるという当局が望まないシナリオの実現性もある。

東京市場では、中国には財政出動の余地があり、金利を下げることも可能であるため、マクロ政策の効果でいずれ景気は底打ちから反転するとの期待感が強い。しかし、これまで指摘したように、金融緩和が効かない可能性を示すデータや現象は、不吉な前兆と私の目には映る。

 

もし、中国経済の調整が長期化するなら、対中売り上げ比率の高い日本企業の収益見通しに下方圧力がかかるだろう。影響はそうした部分にとどまらず、世界経済にも波及するリスクが高まる。世界経済の4%成長を支えると期待されているのは、中国はじめ新興国による先進国を上回る成長率の伸びだ。中国経済の変調のあおりを受け、韓国の輸出は足元で前年比マイナス8%台の落ち込みを記録している。

新しい意味でのチャイナリスクが顕在化した場合、VIX指数が再び、上昇する懸念がある。中国の金融政策の効果がいつ出てくるのか、この点は今年後半の大きな注目点になるだろう。