ジリ貧の電機と復活の自動車の違い(後編)

(前編より続く)

 

対照的に多くの電機メーカーはリストラを先送りできたが、今になって景気循環の難局に陥った。とりわけテレビメーカーは、販売の減少と、加速する液晶ディスプレーの価格下落に苦しんでいる。
だが、タイミングがすべてではないはずだ。自動車業界の最悪期——例えばトヨタが60年ぶりの最終赤字を発表した09年でさえ、日本の自動車メーカーは、現在ハイテク業界の一部を覆う深刻な悲観論を免れた。ソニーやパナソニック、シャープが現在進める大幅な削減と異なり、日本の自動車工場の人員と生産の調整はおおむね一時的で済んだ。

一部のハイテク企業にとって、もう1つ、もっと辛い説明がある。現在の苦境の根本的な原因は各社の製品そのものという説だ。
ゴールドマン・サックスのアナリストらは「主要な(家電)製品は中期的にコモディティー(汎用品)になるという、構造上の問題がある」と指摘する。
言い換えると、いまだに大きく複雑な機械の自動車には消費者は上乗せ価格を払う気がある一方で、薄型テレビはますます製品間の区別がつかなくなっているのだ。今のハイテク界の勝者が、アップルなどソフトウエアやデザインの革新者と、台湾の鴻海精密工業といった低コストの巨大ハードウエアメーカーだとすれば、日本企業は採算の合わない中間地点で身動きできずにいる。

日本勢は事態を好転できるのか?逆説的だが、ここではブランドの認知度と楽観論は反比例する傾向がある。テレビやビデオカメラといった消費者向け製品に対する依存度が高いほど、工場用ロボットやエレベーターの場合と対照的に、会社の見通しは暗くなる。
例えば、シャープが売上高の60%をテレビから得ているのに対し、売上高で日本最大の電機メーカーである日立製作所は、家電製品全部を足しても売上高の10%に満たない。残りは、発電所や採掘装置、新幹線など、利益を維持できた分野から得ている。日立は09年に始めた高くつくリストラを経て、業界のトレンドに抗い、過去2年間黒字を出した。
「すべての会社が頼みの綱となる、その他の事業を持つわけではない」とCLSAのゴヤル氏は指摘する。
頼れる事業がない企業は、価値の高い隙間市場に焦点を絞ることがカギと同氏は語る。レンズ交換式カメラの上位機種でのニコンなど、それを達成できた企業は一握りしかない。「残りの企業については楽観的になれない。彼らは負け戦を戦っている」