米国産牛肉輸入緩和も吉野家に追い風吹かず?

BSE(牛海綿状脳症)対策で規制されている米国産牛肉の輸入が5日、緩和される見通しとなった。だが、投資家の間で吉野家ホールディングスの業績改善期待は限定的だ。穀物高を背景とした米国産牛肉と国内産コメの価格高騰、既存店不振という3つの悩みを吉野家は抱えており、そのうち1つが解消されるだけ。牛丼依存の収益構造も懸念されており、多くの投資家は吉野家成長戦略に不安を払拭できないでいる。市場から信頼を得るためには輸入緩和によるコスト改善をうまく使い、成長戦略を早期に打ち出す必要がある。

吉野家の株価は4日、一時前日比10%高の11万1600円を付けて年初来高値を更新した。牛肉輸入規制が緩和されれば、仕入れコストが下がる可能性があるためだ。「すき家」を展開するゼンショーホールディングスなど競合2社が牛肉調達網を米国産以外に分散しているのに対し、吉野家は全量を米国産に依存している。このため改善効果が大きいとみて買いが集まった。吉野家は「正式決定までには不透明感が残る」としてコスト改善効果については言及しなかったが、いちよし経済研究所の鮫島誠一郎アナリストは「輸入緩和で順調に調達価格が下がれば、十数億円程度の改善になる」と指摘する。

ただ、手放しで喜んではいられない。4日の株価は取引終了にかけ上げ幅を縮小。5日は約3%下げ、上昇をほぼ打ち消してしまった。輸入緩和が収益改善に追い風にはなるが、牛丼事業の成長戦略をまだ投資家が不安視しているからだ。調達価格が下がれば、それを原資に消費者から値下げ圧力が強まる可能性がある。小休止している値下げ競争が再び激しくなれば、業績面では悪循環から抜け出せなくなる。
消費者が歓迎する値下げ競争も、投資家側は冷ややかだ。度重なる値下げで、そもそも集客効果が薄れている。4月に値下げを実施した時は既存店売り上げが前年同月比8%落ちた。12年3~8月期でも前年同期比2%減っている。コスト改善分を使って値下げをしても「改善効果の意味はなくなり、自分の首を絞めるだけ」(鮫島アナリスト)との指摘がある。
加えて、最近の穀物高で牛肉とコメの価格が業績に大きく影響することが露呈し、牛丼事業への依存度の高さがリスクとして改めて意識されている。安定的な成長には原材料価格に左右されにくい事業基盤の構築が成長に不可欠との声が強まっている。

ライバルのゼンショーHDも牛丼頼みには変わらないが、レストラン事業の収益が順調に改善している。13年3月期のレストラン事業の営業利益は72億円と前期比2.2倍伸び、牛丼の減益をレストラン事業が補う見込みだ。一方、吉野家は12年2月期で牛丼以外の営業利益が7億円程度と全体の約15%にとどまる。
成長のカギは穀物高の影響を抑えることにあるだろう。穀物高といっても、原料によって調達価格に違いがある。例えば、同じ量なら、牛肉、コメ、小麦粉の順で価格が高く、アナリストの試算では小麦粉の価格はコメの10分の1程度だ。このため、うどんなど「粉モノ」と言われる小麦粉類が原料のメニューは原価率が低い。

吉野家はうどんチェーン「はなまる」を持っている。売上高は全体の1割にもならず、すし「京樽」やステーキ「どん」よりも少ないが、営業利益率は約5%と牛丼にほぼ匹敵する高さ。もともとの原材料価格が低いため、小麦の調達価格が上昇しても「十分に吸収できる」(同社)という。穀物高のリスクを減らせる意味で、はなまるが果たす役割は大きい。
吉野家HDの社長に9月1日付で、はなまるの社長だった河村泰貴氏が就いた。はなまるを伸ばしてきた実績を評価されて、20年ぶりのトップ交代となった。市場の評価を高めるには、牛丼事業で値下げに頼らず既存店をてこ入れするとともに、はなまるを主力事業の柱の1つに育成することが必要だろう。