消費税引き上げと物価連動国債

消費税が引き上げられると、物価水準はその分だけ上方にシフトする。たとえば、税抜きの本体価格が100円で、消費税率が5%の場合の商品価格は105円である。本体価格が100円のまま変わらなくても、消費税率が8%になれば商品価格は108円、消費税率が10%になれば商品価格は110円になってしまう。
このとき、消費税引き上げに合わせて手取り収入が増えないと、消費税が引き上げられた分だけ私たちの生活は苦しくなる。

この消費税引き上げによる物価上昇は一時的なものであり、いわゆるインフレを意味しない。インフレとは持続的に物価水準が上昇する経済現象を指すが、前年同月比の物価上昇率でみた場合、消費税引き上げから1年経つと影響はなくなるからである。上記の例でいうと、消費税率が10%になったあと、本体価格が100円のまま変わらなければ、商品価格はずっと110円なので、物価上昇率は0%となる。つまり、消費税が引き上げられると物価水準は上方にシフトするが、それによってインフレになるわけではない。

短期金利や長期金利は実体経済の動きに反応するので、仮に消費税引き上げによって個人消費が落ち込み、国内景気が低迷傾向を余儀なくされたとすると、金利は低水準のまま推移する可能性が高い。この場合、預金金利や債券金利が、消費税引き上げによる物価水準の上昇についていけず、購買力という観点からみて実質的に金融資産の価値が目減りしてしまうリスクがある。
こうしたリスクに対応できる運用商品に物価連動国債がある。これは、全国消費者物価指数(除く生鮮食品)の動きに連動して元金額や利払い額が増減する国債で、2004年3月に発行が始まったものである。満期は10年の1種類である。

全国消費者物価指数は家計の消費支出を対象としているので、所得税や住民税などの直接税や社会保険料などの支出は対象としていない。ただし、消費税などの間接税は消費支出に含まれるので、商品価格の一部として計算対象に入れている。したがって、消費税引き上げによって商品価格が上昇すれば、全国消費者物価指数も上昇することになる。
この全国消費者物価指数(除く生鮮食品)でみて、物価が上昇すれば、その上昇率に応じて物価連動国債の元金額が増加し、物価が下落すれば、その下落率に応じて物価連動国債の元金額が減少する。増減後の元金額は想定元金額という。利率は発行時に決められたものが満期時まで適用され続ける固定金利だが、利払い時点の想定元金額に利率を掛けたものが利払い額になるので、物価の変動に応じて利払い額も増減する。10年後の償還額は満期時の想定元金額になる。
したがって、10年間で物価が仮に10%上昇すれば、当初の投資金額の110%の金額を満期償還金として受け取れる。この間、所定の利子も受け取れるので、完全に物価上昇に対応できることになる。
ただし、物価連動国債を保有できるのは金融機関や投資信託などに限られており、個人や一般事業法人は購入できない。このため、一般投資家は投資信託を通して物価連動国債に投資することになる。
具体的には、みずほ投信投資顧問の「MHAM物価連動国債ファンド」や、東京海上アセットマネジメント投信の「東京海上・物価連動国債ファンド」などがある。

注意すべきなのは、物価連動国債は08年8月に発行された後、リーマン・ショック後の市況の急激な悪化を受け新規の発行が停止され、その後も持続的に日本の物価が下落傾向となったために投資家のニーズが減退し、今に至るまで新規の発行が停止されているという点である。新規発行が途絶える一方で買入消却が行われてきたため、マーケット規模はかなり縮小してしまっている。
この点について、財務省の12年度の国債発行計画では「発行再開に向け、市場関係者を交え、具体的な商品性等に係る実務的な検討を進める。準備・環境等が整い次第、発行を再開」と記載されている。具体的には、物価が下落したとしても満期時には額面金額で償還する=元本保証を付けるという形の商品内容の見直しで関係者が合意しており(従来の物価連動国債に満期時の元本保証はない)、今年度後半には関係者のシステム対応が整うものと期待されている。しかし、その後、どのような規模・頻度で物価連動国債の発行が再開されるのか、現時点では明確にはなっていない。
これ以外にも、物価連動国債ファンドに投資する場合には、いくつか理解しておくべきことがあるが、消費税引き上げに対抗する運用手段として物価連動国債ファンドという選択肢がある、ということは覚えておいて損はないであろう。