イオンのビール納入価格は不当廉売か?(前編)

公正取引委員会が「原価より安くビールを卸した」として、独占禁止法(不当廉売)の疑いで三菱食品など食品卸大手3社を警告、事実上の値上げを求めた判断が波紋を呼んでいる。3社からビールの納入を受けているイオンは猛反発、全国紙に意見広告を出すなど徹底抗戦の構えだ。背景にはビール会社のリベート(販売奨励金)にまつわる複雑な商慣習も絡んでおり、ビールメーカーや卸売業者は沈黙。解決の糸口は見つかっていない。

 

公取委三菱食品伊藤忠食品日本酒類販売の卸大手3社に、独占禁止法違反の疑いで不当廉売をやめるよう警告したのは8月1日。原価を下回る価格でイオンにビールを納入していたとして、事実上の値上げを求めたのだ。公取委はイオンやビール大手4社にも取引条件を見直す話し合いに協力するよう求めた。

なぜ公取委はイオンに対する納入価格だけを問題にしたのか。話は06年前後のリベート見直しにさかのぼる。それまでビール会社は卸を通じ、販売数量に応じたリベートを小売店に払っていた。小売価格を下げて売り上げを伸ばすためだったが、大手流通業者を中心に安売り競争が加速した。このため、国税庁は06年、「乱売防止」を目的にリベート廃止を指導。リベートは「注文電子化の協力金」など違う名目で続いたが、総額は減少した。

 

小売店は値上げの必要に迫られ、大半の大手流通業者が応じたが、イオンだけは「消費者に説明できない」と拒否。このため、卸3社はこれまでと同じ条件でビールを卸す代わりに、ほかの取引で採算を取ることにした。公取委によると、遅くとも09年1月からビール・発泡酒の約10銘柄で、仕入れ値に物流費を加えた原価を割る取引が続いていたという。

実際、イオンのビールは安い。都内の店舗では8月下旬、大手メーカーの缶ビール(350㎖)が185円、1ケース(同24缶)が4,350円。他の大手スーパーでは1缶200円前後、1ケース4,700円前後で売られていた。

ただ、激安店ではもっと安い例も珍しくない。イオンは自前の物流センターを立ち上げ、物流費などのコスト削減を進めてきたとの自負がある。公取委がこうした努力を考慮せず、「標的」としたことに強く反発。「イオンの安さには、正当な理由がある」とする大型意見広告を全国紙に掲載したほか、横尾博専務執行役が会見し、「取引が透明化すれば、メーカー、卸と一緒に価格を下げる努力もできる」とメーカーと卸売業者に価格構成や取引内容の開示を迫った。

 
(後編へ続く)