イオンのビール納入価格は不当廉売か?(後編)

(前編より続く)

 

この件ではイオンだけが主張を積極的に発信、メーカーと卸は声をひそめる。背景には全国に約1,600店を抱える業界最大手の「強烈なバイイング・パワー(購買力)に対する取引上の遠慮がある」と業界関係者は推測する。

イオンには自前で卸機能を持てる力があり、プライベートブランド(自主企画商品=PB)の安いビールを韓国メーカーに製造を委託、販売している。機嫌を損ねては「取引を打ち切られかねない」とメーカーや卸売業者が考えても不思議ではない。

甲南大法科大学院の根岸哲教授は「公取委は『不当廉売』のほか、イオンが強い購買力を持つ『優越的地位の乱用』で、卸に無理な条件をのませていた可能性があるという2点で問題にしようとした」とみる。だが、公取委の関係者が「極端に安い価格で販売していたわけではないので…」と言葉を濁すように、その事実は認められていない。

 

業界関係者によると、ビールの価格構成は1缶(350㎖)200円(消費税抜き)とした場合、原材料費が30-40円で、酒税は77円と4割近くを占める。広告宣伝費や物流費を除くと、粗利はメーカー、小売りが十数円、卸にいたってはわずか数円だ。

このため、より多くの利益を得るには「嗜好品で特売の目玉商品でもあり、リベートで価格を下げて薄利多売するしかない」(メーカー)のが実情だ。

景気低迷と長引くデフレで、消費者の「価値ある商品をより安く」という要望は高まるばかり。公取委の判断に強制力はなく、「当面は何も変わらない」との見方が多い。

 

ただ、イオンの横尾専務執行役は「将来的には卸を含めた物流改革に着手したい」と卸参入の意向を隠さない。ビール以外の商品では大手流通業を中心に卸抜きで生産者と直接取引する例が増えている。不透明な商慣習の問題点を関係業界に突き付けた公取委の警告は、ビール流通の仕組み自体を変えるきっかけになるかもしれない。