米国の製造業回復はドル安によるもの

 

製造業といえば「モノづくり日本」、「凋落するアメリカ」を連想しがちだが、それは古の神話と化した。半導体など、日本の衰退はめざましいのと対照的に米製造業は4年前のリーマン・ショック後の不況からV字型回復を遂げつつある。

 

米国で製造業とは「メーン・ストリート」と称され、金融業の「ウォール・ストリート」と対比される。米国家経済上の基本テーマであり、歴代の政権は民主、共和を問わず、どちらか、あるいは両方に軸足を置いてきた。

80年代の共和党レーガン政権は前半が金融市場活性化、後半が製造業にシフトした。90年代の民主党クリントン政権は当初は日本産業をたたき、後半はウォール・ストリート重視に転じた。01年発足のブッシュ政権は当初、「メーン・ストリート」の復権を目指したが、9・11中枢同時テロに遭遇し、金融市場は大きく揺らいだ。そこで住宅ローン証券化商品乱発による住宅バブル創出で家計の消費需要を刺激し、モノの需要を拡大させると同時にウォール・ストリートを太らせた。

リーマン・ショック直後に発足したオバマ政権財政出動の成果を出せなかったが、大統領はこの1月の「一般教書」演説で製造業の復活を強調し、再選に向けた数少ない実績としてアピールしている。

 

だが、グラフを見てほしい。実のところ製造業回復はブッシュ前政権時代から始まっている。米国の自動車、電子・電機など耐久財の生産は02年以来、ドル安に呼応するように復調しているのだ。円、ユーロなど主要国通貨平均に対するドル相場はリーマン・ショック後にいったん上昇したが、09年8月以降は再び下落したあと、ユーロ安の影響を受けて少し上昇して現在に至る。それでも、最近のドル相場の水準はリーマン・ショック前の最安値とほぼ同じである。

ドル安をもたらすのは米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和政策である。ブッシュ政権の場合、FRBのグリーンスパン前議長による低金利政策だし、オバマ政権の場合はバーナンキ議長による量的緩和政策による。量的緩和により、FRBは現在までにドル資金をリーマン・ショック前の3倍まで発行している。その影響でドルの余剰資金が世界に流れ出し、発行量がほとんど伸びていない日本円の相場を押し上げ、超円高をもたらした。

 

オバマ政権は再選されると、製造業での雇用や中間層のてこ入れのためにますますドル安政策に傾斜していくだろう。ロムニー候補が勝利したとしても、歴代の共和党政権が踏襲したように、メーン・ストリート活性化のためにドル安政策を続けるに違いない。

対照的に日本は、政府、日銀とも超円高を放置し、製造業の弱体化に無頓着である。民主、自民、公明の3党が円高・デフレを促進する増税で足並みをそろえ、野田政権は効果が不確かな「成長戦略」に自己満足だ。ドル安路線の米国に歩調を合わせるだけの脳天気ぶりである。

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