中国経済に振り回される日本と韓国

9月10日、日本が第2四半期の経済成長の推定値を下方修正する一方、韓国は新たな財政刺激策を発表し、両国経済が最も重要な貿易相手国である中国の減速に脆いことが浮き彫りになった。

週末から10日にかけて発表された中国の統計値の弱さは、10年に1度の指導部交代を前に、世界第2位の経済大国が欧米の需要の鈍化に苦しみ、正しい政策措置を見つけようともがいていることを裏づけた。
10日発表の数字によると、8月の中国の輸入は前年同月比で2.6%減少し、輸出の伸びは2.7%増にとどまった。輸出の伸び率は7月の1%より高かったが、中国で当たり前だった2ケタ成長を大きく下回る。
輸出の弱さの主因は、最大の貿易相手であり、危機に見舞われている欧州にある。8月の欧州連合(EU)向け輸出は前年同月比で13%近く減った。
輸出産業が推定2億人を雇用している中国では、貿易統計の悪化は大きな懸念材料だ。中国経済の今年の成長率は、99年以来の低さと見られている。
「09年のように中国が力強く回復してすべての人を救うのか、という重要な疑問の答えは『ノー』だ」。クレディ・スイスのアジア地域担当チーフエコノミスト、ドン・タオ氏はこう語り、約3年ぶりの低水準だった8月の工業生産や固定資産投資の減少などを指摘。「中国は、景気循環に対抗する政策では解決できない、構造的な問題に直面している」と言う。「民間部門が投資を正当化できるだけの利益を上げられる分野が見つからない」

中国政府は新規のインフラ整備計画を承認して成長を後押しする対策を講じた。労働集約型産業に対する減税や、対ドルの人民元相場を安定させる政策への新たな決意表明など、さらなる対策を予想するエコノミストもいる。
だが、09年に実施された4兆元の巨大刺激策に中国国務院(内閣に相当)の確たる支持が透けて見えたのと異なり、現在は派閥間で意見が違う兆候があると、みずほ証券のアジア担当チーフエコノミスト、沈建光氏は言う。
「政府はハードランディング(硬着陸)のリスクを認識し始めたが、今回はトップからの力強いメッセージがない」。同氏はこう語り、中国の経済企画を担う最高機関で成長を重視する国家発展改革委員会と、インフレのリスクを懸念する中央銀行との間に緊張が生じていると指摘する。

中国の成長鈍化の影響は日本の第2四半期の国内総生産(GDP)の大幅下方修正に顕著に表れ、世界第3位の経済大国である日本が今年、少なくとも1四半期はマイナス成長に陥る懸念を引き起こした。日本の4-6月期のGDP改定値は0.2%増となり、速報値の0.3%増から下方修正された。在庫や政府支出、民間部門の投資が予想より弱くなったためだ。
一方、韓国政府は輸出統計の弱さを受けて、3カ月前の75億ドル規模に続き、53億ドル規模の追加刺激策を発表した。エコノミストは、韓国銀行(中央銀行)が今週、7月の同様な動きに続いて0.25%の追加利下げに踏み切る可能性があると見る。
日本では、追加の刺激策への期待が高まっている。米連邦準備理事会(FRB)がもう一段の金融緩和に踏み切り、対ドルでの円高を招く場合はなおさらだ。
HSBCのアジア経済部門の共同代表を務めるフレデリック・ニューマン氏は「金融政策にどれほど有効性が残っているにせよ、日銀はそれを利用すべきだ」と語った。

創業以来の大暴落が続くNEC(後編)

(前編より続く)

 

ところが11年3月の東日本大震災や11月のタイの洪水による被害で業績は大打撃を受け、12年3月期の連結決算では1100億円の当期純損失となった。

問題はNEC本体にとどまらない。切り離したはずの半導体も東日本大震災で打撃を受け、NECの足を引っ張った。

「当初はNEC、三菱電機、日立製作所の3社が計2000億円を出資し、これで工場閉鎖や早期退職者の割り増し退職金を捻出する予定だったが、大震災で8工場が被災し、復旧に資金を使ってしまい、事業リストラなどをやる資金がなくなった。ルネサスはNECがグループで約35%の株を所有していて、11年3月期から2期にわたって持ち分法投資損益が出ている」(前出・広瀬氏)

7月31日、NECなど3社は、総額で495億円の資金支援を決定した。

「175億円を保証金として拠出しているが、これが最後。5月にルネサスの株式を信託拠出として出したので、実質NEC名義で保有しているのは3%程度となり、今後の持ち分法投資損益はこの範囲で影響を受ける」(NEC広報担当)

 

では、NECは今後どうなるのか。広瀬氏はこう語る。

「NECの追加支援はNECの規模からすればそれほど大きなものとはいえないが、収益変動が激しい半導体事業を遠ざける意図をもって、いったん連結対象からはずしたことを踏まえると、NECの信用力にとってネガティブな影響があると考えられる。また今後NECの収益がさらに悪化し、13年3月期における調整後有利子負債対EBITDA倍率が5.0倍を超える、あるいは調整前営業利益率が3.0%を下回れば、NECの格付けに下方圧力がかかる」

 

さらに酒井氏は次のように指摘する。

「NECの目標株価を155円と考えている。ここから見るとかなり売り込まれている。NECは債務超過ではない。取引先はNTTや政府関連の公的機関が多い。まだ市場から資金を調達する力は残っているので、潰れる心配はない。ただ、稼げる分野、スマートエネルギーや環境エネルギーなどの分野をどれだけ伸ばせるのかが課題ではないか」

果たしてNECは復活できるか、正念場を迎えている。

創業以来の大暴落が続くNEC(前編)

00年には3,540円の値を付けていたNECの株価が歴史的な大暴落を記録している。7月下旬には、データが確認できる77年以降初めて100円を割り込んだ。現在100円台には回復したものの、破綻予備軍の株価が続いている。

さらに金融機関などが企業の信用リスクを取引するCDS市場ではNECのプレミアムが上昇し、「危険水域」といわれる400bp(=4%)を6月に突破すると、7月には東京電力の501bpを超えた。まさにNECにとっては、創業以来の危機だ。

 

100円割れのきっかけとなったのは米大手格付け機関ムーディーズ」による格付け見直し。同社は7月20日、長期債務と発行格付けを見直し「Baa2」の「安定的」から「ネガティブ」に変更したことが発表されると、株価は100円を割り99円まで下落。7月末まで100円台と90円台の間を行き来する攻防が続いていた。

ムーディーズのアナリスト、広瀬和貞氏は社債の格付け見通しの変更について次のように説明する。

「株価の下落とは直接関係はないと思いますが、社債の格付け見通しをネガティブに変更したのは、収益性と財務の回復がムーディーズの想定よりも遅れていることを反映したから」だという。

 

では、なぜNECの株価が低迷しているのか。SMBCフレンド調査センター主任研究員の酒井洋氏は次のように語る。

「NECは稼ぐことのできる部門がなくなり、バランスシートが傷んでいる。さらにバランスシートが傷んでいるのでエクイティーを調達する必要性が高まっていると市場では見ている。資産が劣化し、収益力の弱い企業が増資すれば、1株あたりの株主価値は減少する。それが株価に反映し株価が大きく下げているのではないか」

つまり「収益性と財務」に問題があると判断しているようだ。

 

08年のリーマンショック後、NECは構造改革を行ってきた。10年に就任した遠藤信博社長は中期経営計画で

  1. IT・ネットワークソリューション事業
  2. グローバル事業
  3. 環境・エネルギー事業

の三事業の強化を宣言。同年4月には収益変動の激しい半導体事業「NECエレクトロニクス」をルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)と合併、11年には収益の上がらない個人向けPC事業も切り離し連結対象外とした。

 
(後編へ続く)

クラヴィスの破綻でSMBCグループに火の粉

過払い金の返還請求が相次ぎ、自己破産した消費者金融のクラヴィス。判明している利息の払い過ぎによる過払い金請求権は約2378億円で、債権者は約35万人。債権者の返済に充てる原資がほとんどなく、管財人は親会社だったプロミス(現SMBCコンシューマーファイナンス)を相手取る訴訟を示唆しており、破綻の影響がメガ金融グループに波及する可能性が出てきた。

 

大阪地裁に7月5日、自己破産を申請し、同日付で破産手続きの開始決定がなされたクラヴィスの債権者集会が8月末、大阪市内で開かれた。約50人の参加者に対し、管財人の小松陽一郎弁護士はクラヴィスに財産と呼べるものがなく、現状で債権者への配当は困難だとして「プロミスに過去の弁済を返還するよう求めている。交渉が成立しなければ訴訟になる」と説明した。

 

管財人側の根拠はこうだ。

クラヴィスは、07年に貸付債権と債務をプロミスに譲渡し、同年12月に貸金業を廃業、収入源を失った。一方、プロミスは08年1月-12年5月の間、クラヴィスから引き受けた過払い金債務約147億円を請求者に支払い、クラヴィスから全額補填を受けていたという。

破産法は、支払い不能の破産者が一部の債権者を優遇して弁済することを、債権者平等に反する「偏頗行為」として禁止している。

管財人はクラヴィスの支払い能力が07年末で消滅しており、同社の穴埋めによるプロミスの弁済が「偏頗行為」に該当するとし、返還と全債権者への再配当が妥当としている。

 

SMBCコンシューマーファイナンスは、どう対応するのか。

「破産手続きが終わっていない段階で、お答えしにくい」と同社広報CSR室の担当者は困惑する。過去の弁済の返還請求は「当社としては、非常にまれなケースではないか」としている。

債権者側の不安の声は強い。集会に参加した男性は「自己破産申請前に、個人で起こした裁判で勝訴したが、請求に返答がない。いったいどうなるのか」と憤りをみせる。

管財人側はクラヴィスの資産が乏しいため、10月末をめどにSMBCコンシューマーファイナンスとの交渉決着を急ぐ。

管財人が引き継いだ現金は9000万円ほど。しかし、それもコールセンターの運営費や破産手続きの人件費で目減りし、「遠からず債権者への配当が不可能になる」(管財人代理)。

 

クラヴィスから債権譲渡を受けた別の消費者金融1社に対し、管財人は支払い済みの過払い金を返還するよう求める訴訟を8月、大阪地裁に起こしている。

ただ、先の見通しはまったく立っておらず、債権者代理の男性は「どれほど回収できるのか、まるで分からない」とため息をつく。

クラヴィスが破綻した原因は、出資法の上限(年29.2%)と利息制限法の上限(同15-29%)の間の「グレーゾーン金利」が06年の最高裁判決で実質廃止され、過払い金の返還で業績が悪化したため。

クラヴィスの04年3月期の売上高は380億円だったが、過払い金の支払いで07年3月期に274億円の最終赤字に転落。経営を維持できなくなった。

 

クラヴィスは、75年に設立(当時の社名はリッチ)。00年にプロミスの子会社となった。一方、プロミスは04年に三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の傘下入り。プロミスとクラヴィスの親子関係は09年まで続いたが、他社との提携や債権譲渡を繰り返し、社名を何度も変更した。

グレーゾーン金利規制の端境期で、再編整理を急いだ節がある」。管財人代理の山崎道雄弁護士はこう指摘した上で、「会社の変遷が複雑で、実態把握は困難だ」と話している。

消費税引き上げと物価連動国債

消費税が引き上げられると、物価水準はその分だけ上方にシフトする。たとえば、税抜きの本体価格が100円で、消費税率が5%の場合の商品価格は105円である。本体価格が100円のまま変わらなくても、消費税率が8%になれば商品価格は108円、消費税率が10%になれば商品価格は110円になってしまう。
このとき、消費税引き上げに合わせて手取り収入が増えないと、消費税が引き上げられた分だけ私たちの生活は苦しくなる。

この消費税引き上げによる物価上昇は一時的なものであり、いわゆるインフレを意味しない。インフレとは持続的に物価水準が上昇する経済現象を指すが、前年同月比の物価上昇率でみた場合、消費税引き上げから1年経つと影響はなくなるからである。上記の例でいうと、消費税率が10%になったあと、本体価格が100円のまま変わらなければ、商品価格はずっと110円なので、物価上昇率は0%となる。つまり、消費税が引き上げられると物価水準は上方にシフトするが、それによってインフレになるわけではない。

短期金利や長期金利は実体経済の動きに反応するので、仮に消費税引き上げによって個人消費が落ち込み、国内景気が低迷傾向を余儀なくされたとすると、金利は低水準のまま推移する可能性が高い。この場合、預金金利や債券金利が、消費税引き上げによる物価水準の上昇についていけず、購買力という観点からみて実質的に金融資産の価値が目減りしてしまうリスクがある。
こうしたリスクに対応できる運用商品に物価連動国債がある。これは、全国消費者物価指数(除く生鮮食品)の動きに連動して元金額や利払い額が増減する国債で、2004年3月に発行が始まったものである。満期は10年の1種類である。

全国消費者物価指数は家計の消費支出を対象としているので、所得税や住民税などの直接税や社会保険料などの支出は対象としていない。ただし、消費税などの間接税は消費支出に含まれるので、商品価格の一部として計算対象に入れている。したがって、消費税引き上げによって商品価格が上昇すれば、全国消費者物価指数も上昇することになる。
この全国消費者物価指数(除く生鮮食品)でみて、物価が上昇すれば、その上昇率に応じて物価連動国債の元金額が増加し、物価が下落すれば、その下落率に応じて物価連動国債の元金額が減少する。増減後の元金額は想定元金額という。利率は発行時に決められたものが満期時まで適用され続ける固定金利だが、利払い時点の想定元金額に利率を掛けたものが利払い額になるので、物価の変動に応じて利払い額も増減する。10年後の償還額は満期時の想定元金額になる。
したがって、10年間で物価が仮に10%上昇すれば、当初の投資金額の110%の金額を満期償還金として受け取れる。この間、所定の利子も受け取れるので、完全に物価上昇に対応できることになる。
ただし、物価連動国債を保有できるのは金融機関や投資信託などに限られており、個人や一般事業法人は購入できない。このため、一般投資家は投資信託を通して物価連動国債に投資することになる。
具体的には、みずほ投信投資顧問の「MHAM物価連動国債ファンド」や、東京海上アセットマネジメント投信の「東京海上・物価連動国債ファンド」などがある。

注意すべきなのは、物価連動国債は08年8月に発行された後、リーマン・ショック後の市況の急激な悪化を受け新規の発行が停止され、その後も持続的に日本の物価が下落傾向となったために投資家のニーズが減退し、今に至るまで新規の発行が停止されているという点である。新規発行が途絶える一方で買入消却が行われてきたため、マーケット規模はかなり縮小してしまっている。
この点について、財務省の12年度の国債発行計画では「発行再開に向け、市場関係者を交え、具体的な商品性等に係る実務的な検討を進める。準備・環境等が整い次第、発行を再開」と記載されている。具体的には、物価が下落したとしても満期時には額面金額で償還する=元本保証を付けるという形の商品内容の見直しで関係者が合意しており(従来の物価連動国債に満期時の元本保証はない)、今年度後半には関係者のシステム対応が整うものと期待されている。しかし、その後、どのような規模・頻度で物価連動国債の発行が再開されるのか、現時点では明確にはなっていない。
これ以外にも、物価連動国債ファンドに投資する場合には、いくつか理解しておくべきことがあるが、消費税引き上げに対抗する運用手段として物価連動国債ファンドという選択肢がある、ということは覚えておいて損はないであろう。

米国産牛肉輸入緩和も吉野家に追い風吹かず?

BSE(牛海綿状脳症)対策で規制されている米国産牛肉の輸入が5日、緩和される見通しとなった。だが、投資家の間で吉野家ホールディングスの業績改善期待は限定的だ。穀物高を背景とした米国産牛肉と国内産コメの価格高騰、既存店不振という3つの悩みを吉野家は抱えており、そのうち1つが解消されるだけ。牛丼依存の収益構造も懸念されており、多くの投資家は吉野家成長戦略に不安を払拭できないでいる。市場から信頼を得るためには輸入緩和によるコスト改善をうまく使い、成長戦略を早期に打ち出す必要がある。

吉野家の株価は4日、一時前日比10%高の11万1600円を付けて年初来高値を更新した。牛肉輸入規制が緩和されれば、仕入れコストが下がる可能性があるためだ。「すき家」を展開するゼンショーホールディングスなど競合2社が牛肉調達網を米国産以外に分散しているのに対し、吉野家は全量を米国産に依存している。このため改善効果が大きいとみて買いが集まった。吉野家は「正式決定までには不透明感が残る」としてコスト改善効果については言及しなかったが、いちよし経済研究所の鮫島誠一郎アナリストは「輸入緩和で順調に調達価格が下がれば、十数億円程度の改善になる」と指摘する。

ただ、手放しで喜んではいられない。4日の株価は取引終了にかけ上げ幅を縮小。5日は約3%下げ、上昇をほぼ打ち消してしまった。輸入緩和が収益改善に追い風にはなるが、牛丼事業の成長戦略をまだ投資家が不安視しているからだ。調達価格が下がれば、それを原資に消費者から値下げ圧力が強まる可能性がある。小休止している値下げ競争が再び激しくなれば、業績面では悪循環から抜け出せなくなる。
消費者が歓迎する値下げ競争も、投資家側は冷ややかだ。度重なる値下げで、そもそも集客効果が薄れている。4月に値下げを実施した時は既存店売り上げが前年同月比8%落ちた。12年3~8月期でも前年同期比2%減っている。コスト改善分を使って値下げをしても「改善効果の意味はなくなり、自分の首を絞めるだけ」(鮫島アナリスト)との指摘がある。
加えて、最近の穀物高で牛肉とコメの価格が業績に大きく影響することが露呈し、牛丼事業への依存度の高さがリスクとして改めて意識されている。安定的な成長には原材料価格に左右されにくい事業基盤の構築が成長に不可欠との声が強まっている。

ライバルのゼンショーHDも牛丼頼みには変わらないが、レストラン事業の収益が順調に改善している。13年3月期のレストラン事業の営業利益は72億円と前期比2.2倍伸び、牛丼の減益をレストラン事業が補う見込みだ。一方、吉野家は12年2月期で牛丼以外の営業利益が7億円程度と全体の約15%にとどまる。
成長のカギは穀物高の影響を抑えることにあるだろう。穀物高といっても、原料によって調達価格に違いがある。例えば、同じ量なら、牛肉、コメ、小麦粉の順で価格が高く、アナリストの試算では小麦粉の価格はコメの10分の1程度だ。このため、うどんなど「粉モノ」と言われる小麦粉類が原料のメニューは原価率が低い。

吉野家はうどんチェーン「はなまる」を持っている。売上高は全体の1割にもならず、すし「京樽」やステーキ「どん」よりも少ないが、営業利益率は約5%と牛丼にほぼ匹敵する高さ。もともとの原材料価格が低いため、小麦の調達価格が上昇しても「十分に吸収できる」(同社)という。穀物高のリスクを減らせる意味で、はなまるが果たす役割は大きい。
吉野家HDの社長に9月1日付で、はなまるの社長だった河村泰貴氏が就いた。はなまるを伸ばしてきた実績を評価されて、20年ぶりのトップ交代となった。市場の評価を高めるには、牛丼事業で値下げに頼らず既存店をてこ入れするとともに、はなまるを主力事業の柱の1つに育成することが必要だろう。

ジリ貧の電機と復活の自動車の違い(後編)

(前編より続く)

 

対照的に多くの電機メーカーはリストラを先送りできたが、今になって景気循環の難局に陥った。とりわけテレビメーカーは、販売の減少と、加速する液晶ディスプレーの価格下落に苦しんでいる。
だが、タイミングがすべてではないはずだ。自動車業界の最悪期——例えばトヨタが60年ぶりの最終赤字を発表した09年でさえ、日本の自動車メーカーは、現在ハイテク業界の一部を覆う深刻な悲観論を免れた。ソニーやパナソニック、シャープが現在進める大幅な削減と異なり、日本の自動車工場の人員と生産の調整はおおむね一時的で済んだ。

一部のハイテク企業にとって、もう1つ、もっと辛い説明がある。現在の苦境の根本的な原因は各社の製品そのものという説だ。
ゴールドマン・サックスのアナリストらは「主要な(家電)製品は中期的にコモディティー(汎用品)になるという、構造上の問題がある」と指摘する。
言い換えると、いまだに大きく複雑な機械の自動車には消費者は上乗せ価格を払う気がある一方で、薄型テレビはますます製品間の区別がつかなくなっているのだ。今のハイテク界の勝者が、アップルなどソフトウエアやデザインの革新者と、台湾の鴻海精密工業といった低コストの巨大ハードウエアメーカーだとすれば、日本企業は採算の合わない中間地点で身動きできずにいる。

日本勢は事態を好転できるのか?逆説的だが、ここではブランドの認知度と楽観論は反比例する傾向がある。テレビやビデオカメラといった消費者向け製品に対する依存度が高いほど、工場用ロボットやエレベーターの場合と対照的に、会社の見通しは暗くなる。
例えば、シャープが売上高の60%をテレビから得ているのに対し、売上高で日本最大の電機メーカーである日立製作所は、家電製品全部を足しても売上高の10%に満たない。残りは、発電所や採掘装置、新幹線など、利益を維持できた分野から得ている。日立は09年に始めた高くつくリストラを経て、業界のトレンドに抗い、過去2年間黒字を出した。
「すべての会社が頼みの綱となる、その他の事業を持つわけではない」とCLSAのゴヤル氏は指摘する。
頼れる事業がない企業は、価値の高い隙間市場に焦点を絞ることがカギと同氏は語る。レンズ交換式カメラの上位機種でのニコンなど、それを達成できた企業は一握りしかない。「残りの企業については楽観的になれない。彼らは負け戦を戦っている」