静かな債券市場

日本でも市場環境は暖まってきた。円高修正と株高は3月期末にかけての朗報だが、次の関門は長期金利である。
2011年9月中間決算に基づく評価損は大手行で3.5兆円、地域金融機関で2.8兆円――。金利が全期間で一律に1%上昇した際に、国債など債券を保有する金融機関が被る損失の試算である。2月23日の衆院予算委員会で、白川方明日銀総裁が示した。
金利リスクについて、日銀は「金融システムリポート」でも折に触れて明らかにしており、今回が初出ではない。米欧の銀行に比べ、邦銀は自己資本に対する債券保有のウエートが高い。長期金利が上昇した際に、債券をしこたま抱える銀行が打撃を被りやすいことに、日銀は気をもんでいる。

長期金利を占ううえでの大きな注目材料は、今国会で消費税引き上げ法案が成立するかどうかだろう。野田佳彦首相は意気込むものの、有力閣僚からも「この内閣支持率では」といった弱音が聞こえてきた。
民主党実力者のなかには「14年度からの増税なのだから、何も今国会で無理しなくても」ともらす向きも出てきた。この実力者は小沢派ではない。「消費税解散をしてみても、票は橋下徹・大阪市長の率いる大阪維新の会に流れるだけ」というのが、民主党議員の本音だ。

もっとも、消費税法案が不成立となる可能性が出ている割には、債券市場は静かだ。日銀が国債の購入額を10兆円増やし、債券の需給を好転させているからだろう。2年物国債の利回りはいまや約0.1%と、日銀による翌日物コール金利の誘導水準である0~0.1%近辺に張り付いている。
国会審議をよそに債券市場の「自警団」が繰り出す様子はない。長期金利安定の「白河夜船」を決め込むのは、ちょっとばかり危ういようにも見えるが、市場にとっては需給がすべてということだろうか。追加緩和策の奇妙な副産物である。