みずほ株主総会での快挙

M&Aに限っていうと、昨年に米国で起きた株主代表訴訟は502本ある。対象となったM&Aは81件だから、1件当たり6本の訴訟を抱えた。金融危機前の07年の平均訴訟数は3本だっただけに、法曹界の関心は高い。
最近の株主による攻撃手法は専門的だ。M&Aの場合、価格の公正さ、判断プロセス、ディール・プロテクションといった価格以外の条件、情報開示などが狙われている。対して、壇上に登場した裁判官や弁護士はバンカーのように事件の背景となった経営戦略やスキームを説明した。各プレーヤーが切磋琢磨し、成長を続けているのが米国のコーポレート・ガバナンス(企業統治)なのだ。

一方のわが国。訴訟ではないが、日本の企業統治史にとって画期的な事件が最近起きた。みずほフィナンシャルグループの株主総会で、「政策保有株式の議決権行使」「役員報酬の個別開示」といった7本の株主提案が20%以上の賛成票を得たのである。
賛成率が28%と最も高かった株主提案は7号議案の「役員研修の方針と実績の開示」。研修自体は訴訟債務から取締役を守るためではないが、「株主と利害関係者の価値最大化と持続的成長に資する。敗訴しないだけの仕事をやらせるよりも高いスタンダード」と公益社団法人、会社役員育成機構のニコラス・ベネッシュ代表理事は解説する。

みずほ側は「不要」と却下したが、そもそも日本は取締役の鍛錬不足が否めない。株主代表訴訟は年数十件しか起きないレベル。取締役が敗訴するのは悪意が認められてようやく、という例が目立ち、積極策に打って出た結果の重過失を認める例は少ない。つまり、裁判数が少ないのもさることながら、経営判断自体の合理性が問われていないのだ。

日本はデラウェア州法のような責任免除規定もない。経営通とは思えない裁判官の裁量が働いて高額賠償を決める例もある。だが、予見可能性が米国よりも低いからこそ、研修内容を開示した方が「善管注意義務を果たしている」証拠として援用できるのではないのか。それとも、逆に開示した方が訴訟に不利になる程度の研修レベルなのか。研修不要というなら、これまでの株価低迷はなぜなのか。
「社内からの取締役が責任と監督内容に対する十分な知識をもって貢献できなければ、優秀とはいっても少数派の社外取締役がやれることには限りがある」(ベネッシュ氏)。政府は社外取締役の義務化に動いているが、まずは社内取締役から鍛えてほしい。