韓国不動産下落が消費に影

韓国の景気減速に歯止めがかからない。欧州危機に伴う輸出の低迷を震源に、個人消費の落ち込みが深くなってきたためだ。だが、消費低迷の背景には8月のソウルのアパート価格下落率が00年以降で最大となるなど、不動産の値下がりによる「逆資産効果」もちらつく。家計を左右する不動産市場のソフトランディングへ政府・中央銀行の政策対応の重みが増している。

 

「7月の利下げ効果が出ており、金利は適正値から外れていない」。韓国銀行の金仲秀総裁は13日、政策金利の年3%据え置きを決めた理由をこう説明した。市場では追加利下げ予想が優勢だった。想定以上に実体経済の悪化が進んでいるからだ。

8月の輸出は前年比6.2%減と2カ月連続のマイナス。7月までの流通業の前年比売り上げは、大型スーパーが4カ月連続の減少。百貨店も2カ月連続減だった。外需低迷が景況感を冷え込ませ、内需に広く波及したのが今の韓国経済の見取り図だ。

 

消費落ち込みには不動産価格の下落も加勢している。8月のソウルのアパート売買価格指数は前年比3.1%低下。下落は24カ月連続だ。02年と07年にそれぞれ3割強、2割強の値上がりが1年近く続いたのを振り返ると、「バブル崩壊が始まっている」という指摘は大げさではない。

韓国でアパート売買は人気の高い資産運用手段だ。家計の資産に占める不動産関連の割合は7割と、日米の2倍。値上がりを信じて買ったアパートの価格下落がのしかかり、「逆資産効果で消費が委縮している」(外資系運用会社のファンドマネージャー)。家計の借金が過去最大に膨らんでいるのも、住宅ローン返済のために借金を重ねるケースが増えているからだ。

 

政府も問題の所在は認識している。10日発表の景気浮揚策には、不動産の取得税や譲渡税の時限減税といった売買活性化のカンフル剤を盛り込んだ。韓国銀行が政府の浮揚策に呼応して「10月にも利下げに踏み切る」(大手証券系シンクタンクのアナリスト)との予想も多い。

もっとも今まで打ち出してきた政府の不動産対策は小出しで、「効果は薄い」(大手銀行の資金市場部長)。一方、思い切った政策を打とうとすると、「金持ち優遇」との激しい批判を受けるジレンマに直面する。

 

さらなる金融緩和の効果も疑わしい。7月のマネーストック(M2)は前年比6%増と昨年1月以来の高い伸び。市中には潤沢な資金が出回っているが、マネーは定期預金や債券といった安全資産に逃げ込んでいる。

今年の実質国内総生産(GDP)伸び率は、前年比3.6%から2%台に落ちるとの見通しも出始めた。外需の持ち直しを見通せぬ中、景気下振れを食い止めるには不動産市場安定の妙手を探し当てることがカギになる。

2013年問題が間近に

世代間格差をめぐる論争の根源にして最大のテーマが年金だ。若い世代は「払い損」、高齢世代は「もらい得」とされるが、実際にどれくらいの差があるのか。「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が試算した。

 

「2013年問題」が間近に迫っている。徐々に引き上げられている年金の受給開始年齢が、来年の4月2日以降に60歳になる世代から、いよいよ「60歳では年金がもらえない」――つまり、定年退職してから受給開始まで収入がゼロになる「空白期間」ができてしまう。この空白期間は世代が若くなるごとに長くなり、現在51歳以下の世代は65歳まで年金がもらえない「空白の5年間」が生まれることになる。

 

年金は、若い世代になればなるほど「支払う保険料は多く」「受給額は少なく」なる。

サラリーマンの場合、月給に「保険料率」をかけた金額を「厚生年金保険料」として天引きされている。保険料率は04年9月までは13.58%だったが、毎年0.354%ずつアップし、現在は16.412%、17年には18.3%になることが決まっている。過去に遡れば60年代は3.5-6.2%、70年代は6.2-9.1%と低かったから、若い世代ほど負担が重いことは事実だ。

 

平均的なサラリーマン(現役時代の平均月給35万円)のケースで、「現在70歳の世代」では支払う保険料が1755万円なのに対し、受給額は3339万円。差し引き1584万円の「黒字」となる。

「現在20歳の世代」では、支払う保険料は現在70歳の世代よりも1160万円も多くなる一方で、受給額は2452万円。463万円の「赤字」だ。実に、現在70歳の世代と2000万円以上の差がある。現在50歳の世代が「損益分岐点」になる。

FX再編の嵐再び(後編)

(前編より続く)

 

FX業者の収益確保の戦略としては、システムにかかる費用をどこまで抑えられるかも重要なポイントになる。この点を重視し、新しいFXサービスを打ち出したのが、楽天証券だ。

他社のシステムを間借りしていた楽天証券は今月7日、来年1月に新サービス「楽天FX」を始めると発表。これまではコスト抑制や柔軟なスプレッド縮小に難があったが、自前のシステムに移行することで、「スプレッドを含め、他の大手に負けない競争力を備えられる」(関係者)としている。

親会社が運営するインターネット商店街「楽天市場」が抱える数千万人の利用者への浸透によっては、勢力図を塗り替える可能性もあり、業界では警戒感が強まっている。

金融庁の新規制、大手間の手数料引き下げ競争の激化、システム費用の負担に加え、ここ数カ月間、為替相場の変動幅が縮小傾向にあることなど、FX業界を取り巻く経営環境は厳しさを増す。

 

さらに、大手が本格的に海外進出に乗り出すなど競争がグローバル化すれば、体力差が物を言う状況は強まる一方で、中小が存在感を示せる場所は少なくなるとの見方も強い。GMOは先月、国内大手で初めて、香港でのサービスの提供を開始し、「現在は規制で参入できない中国本土でも将来、サービスを提供したい」(高島社長)など、早くも競争の場を新興国市場に拡大している。

こうした環境の厳しさを反映するように、ある大手業者には「FX業者を買わないか、という話が複数、持ち込まれている」(関係者)。SBIFXトレードの藤田取締役は「今後、本格的な淘汰の波が来る」と予言する。

FX再編の嵐再び(前編)

外国為替証拠金取引(FX)業界で、M&A(企業の合併・買収)による本格的な再編に火が付いた。約1年前、監督官庁の金融庁個人投資家向けにレバレッジの上限を25倍以下とする規制を打ち出し、投資熱が冷めた上、業者間の手数料の引き下げ競争が過熱し、収益を圧迫させていることが背景にある。さらに、SBIホールディングス楽天証券など体力に勝るネット証券大手が、FXに本腰を入れる構えを見せており、生き残り競争は“戦国時代"を迎えた。

 

風雲急を告げる、FX業界の再編。これまでは体力差の離れた大手が、競争激化で経営が苦しくなった中小業者を買収するケースが多かったが、今月に入って立て続けに起こった再編劇は、取引高上位10位内に入る大手同士が、価格競争力を高めるため、さらなる規模の巨大化を目指す狙いが透けてみえる。

それが顕著に表れたのが、GMOクリックホールディングス(HD)が仕掛けた再編だ。取引高首位のGMOクリック証券を傘下に持つ同社は13日、伊藤忠商事系で8位のFXプライムをTOB(株式公開買い付け)で子会社化すると発表した。

GMOクリックHDの高島秀行社長は「FXだけをしたい顧客に対しては、社名にFXと冠した専業の会社の方がアピールしやすい」と述べ、あえて傘下2社を合併せず、2ブランドを駆使し顧客拡大を狙う方針だ。

その上で、FXプライムについては「潜在的な力はあり、当社の買収により価格競争力を発揮できるようにすれば、取引高は3-4倍になる」と強気の見方を示した。

一方、2位のDMM.com証券は1日、6位の外為ジャパンのFX事業を買収。取引高を単純合算すると20兆円を超える強力な2位連合を形成した。

 

さらなる手数料の引き下げなどの価格競争激化と再編加速の兆候を、業界関係者に感じさせるのが、今年5月末に参入したSBIHD傘下の「SBIFXトレード」の動きだ。

北尾吉孝社長が率いるSBIHDは、オンライン証券や住宅ローンなど業容を拡大しており、その豪腕ぶりや、グループの総合力はFX業界にとって脅威だ。

FX業者がそれぞれの特徴を打ち出す上で重要になる戦略の柱は、売値と買値の差であるスプレッドで、事実上の手数料となる。FXトレードは「後発なので、他社とのサービスの違いを出す必要がある」(藤田行生取締役)として、ドル・円取引で他の大手が0.4銭のところを0.19銭でスタートした。

同社が、取引量が一定以上になればスプレッドも段階的に高くなる独自の手数料体系を打ち出しつつ、低スプレッドを提示し続けたことで、大手間の引き下げ競争が再加速した経緯もある。

 
(後編へ続く)

米国の製造業回復はドル安によるもの

 

製造業といえば「モノづくり日本」、「凋落するアメリカ」を連想しがちだが、それは古の神話と化した。半導体など、日本の衰退はめざましいのと対照的に米製造業は4年前のリーマン・ショック後の不況からV字型回復を遂げつつある。

 

米国で製造業とは「メーン・ストリート」と称され、金融業の「ウォール・ストリート」と対比される。米国家経済上の基本テーマであり、歴代の政権は民主、共和を問わず、どちらか、あるいは両方に軸足を置いてきた。

80年代の共和党レーガン政権は前半が金融市場活性化、後半が製造業にシフトした。90年代の民主党クリントン政権は当初は日本産業をたたき、後半はウォール・ストリート重視に転じた。01年発足のブッシュ政権は当初、「メーン・ストリート」の復権を目指したが、9・11中枢同時テロに遭遇し、金融市場は大きく揺らいだ。そこで住宅ローン証券化商品乱発による住宅バブル創出で家計の消費需要を刺激し、モノの需要を拡大させると同時にウォール・ストリートを太らせた。

リーマン・ショック直後に発足したオバマ政権財政出動の成果を出せなかったが、大統領はこの1月の「一般教書」演説で製造業の復活を強調し、再選に向けた数少ない実績としてアピールしている。

 

だが、グラフを見てほしい。実のところ製造業回復はブッシュ前政権時代から始まっている。米国の自動車、電子・電機など耐久財の生産は02年以来、ドル安に呼応するように復調しているのだ。円、ユーロなど主要国通貨平均に対するドル相場はリーマン・ショック後にいったん上昇したが、09年8月以降は再び下落したあと、ユーロ安の影響を受けて少し上昇して現在に至る。それでも、最近のドル相場の水準はリーマン・ショック前の最安値とほぼ同じである。

ドル安をもたらすのは米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和政策である。ブッシュ政権の場合、FRBのグリーンスパン前議長による低金利政策だし、オバマ政権の場合はバーナンキ議長による量的緩和政策による。量的緩和により、FRBは現在までにドル資金をリーマン・ショック前の3倍まで発行している。その影響でドルの余剰資金が世界に流れ出し、発行量がほとんど伸びていない日本円の相場を押し上げ、超円高をもたらした。

 

オバマ政権は再選されると、製造業での雇用や中間層のてこ入れのためにますますドル安政策に傾斜していくだろう。ロムニー候補が勝利したとしても、歴代の共和党政権が踏襲したように、メーン・ストリート活性化のためにドル安政策を続けるに違いない。

対照的に日本は、政府、日銀とも超円高を放置し、製造業の弱体化に無頓着である。民主、自民、公明の3党が円高・デフレを促進する増税で足並みをそろえ、野田政権は効果が不確かな「成長戦略」に自己満足だ。ドル安路線の米国に歩調を合わせるだけの脳天気ぶりである。

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イオンのビール納入価格は不当廉売か?(後編)

(前編より続く)

 

この件ではイオンだけが主張を積極的に発信、メーカーと卸は声をひそめる。背景には全国に約1,600店を抱える業界最大手の「強烈なバイイング・パワー(購買力)に対する取引上の遠慮がある」と業界関係者は推測する。

イオンには自前で卸機能を持てる力があり、プライベートブランド(自主企画商品=PB)の安いビールを韓国メーカーに製造を委託、販売している。機嫌を損ねては「取引を打ち切られかねない」とメーカーや卸売業者が考えても不思議ではない。

甲南大法科大学院の根岸哲教授は「公取委は『不当廉売』のほか、イオンが強い購買力を持つ『優越的地位の乱用』で、卸に無理な条件をのませていた可能性があるという2点で問題にしようとした」とみる。だが、公取委の関係者が「極端に安い価格で販売していたわけではないので…」と言葉を濁すように、その事実は認められていない。

 

業界関係者によると、ビールの価格構成は1缶(350㎖)200円(消費税抜き)とした場合、原材料費が30-40円で、酒税は77円と4割近くを占める。広告宣伝費や物流費を除くと、粗利はメーカー、小売りが十数円、卸にいたってはわずか数円だ。

このため、より多くの利益を得るには「嗜好品で特売の目玉商品でもあり、リベートで価格を下げて薄利多売するしかない」(メーカー)のが実情だ。

景気低迷と長引くデフレで、消費者の「価値ある商品をより安く」という要望は高まるばかり。公取委の判断に強制力はなく、「当面は何も変わらない」との見方が多い。

 

ただ、イオンの横尾専務執行役は「将来的には卸を含めた物流改革に着手したい」と卸参入の意向を隠さない。ビール以外の商品では大手流通業を中心に卸抜きで生産者と直接取引する例が増えている。不透明な商慣習の問題点を関係業界に突き付けた公取委の警告は、ビール流通の仕組み自体を変えるきっかけになるかもしれない。

イオンのビール納入価格は不当廉売か?(前編)

公正取引委員会が「原価より安くビールを卸した」として、独占禁止法(不当廉売)の疑いで三菱食品など食品卸大手3社を警告、事実上の値上げを求めた判断が波紋を呼んでいる。3社からビールの納入を受けているイオンは猛反発、全国紙に意見広告を出すなど徹底抗戦の構えだ。背景にはビール会社のリベート(販売奨励金)にまつわる複雑な商慣習も絡んでおり、ビールメーカーや卸売業者は沈黙。解決の糸口は見つかっていない。

 

公取委三菱食品伊藤忠食品日本酒類販売の卸大手3社に、独占禁止法違反の疑いで不当廉売をやめるよう警告したのは8月1日。原価を下回る価格でイオンにビールを納入していたとして、事実上の値上げを求めたのだ。公取委はイオンやビール大手4社にも取引条件を見直す話し合いに協力するよう求めた。

なぜ公取委はイオンに対する納入価格だけを問題にしたのか。話は06年前後のリベート見直しにさかのぼる。それまでビール会社は卸を通じ、販売数量に応じたリベートを小売店に払っていた。小売価格を下げて売り上げを伸ばすためだったが、大手流通業者を中心に安売り競争が加速した。このため、国税庁は06年、「乱売防止」を目的にリベート廃止を指導。リベートは「注文電子化の協力金」など違う名目で続いたが、総額は減少した。

 

小売店は値上げの必要に迫られ、大半の大手流通業者が応じたが、イオンだけは「消費者に説明できない」と拒否。このため、卸3社はこれまでと同じ条件でビールを卸す代わりに、ほかの取引で採算を取ることにした。公取委によると、遅くとも09年1月からビール・発泡酒の約10銘柄で、仕入れ値に物流費を加えた原価を割る取引が続いていたという。

実際、イオンのビールは安い。都内の店舗では8月下旬、大手メーカーの缶ビール(350㎖)が185円、1ケース(同24缶)が4,350円。他の大手スーパーでは1缶200円前後、1ケース4,700円前後で売られていた。

ただ、激安店ではもっと安い例も珍しくない。イオンは自前の物流センターを立ち上げ、物流費などのコスト削減を進めてきたとの自負がある。公取委がこうした努力を考慮せず、「標的」としたことに強く反発。「イオンの安さには、正当な理由がある」とする大型意見広告を全国紙に掲載したほか、横尾博専務執行役が会見し、「取引が透明化すれば、メーカー、卸と一緒に価格を下げる努力もできる」とメーカーと卸売業者に価格構成や取引内容の開示を迫った。

 
(後編へ続く)